『雨の日の猫』

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私は語る為に生かされた殺戮人形。
幾人もの敵兵を殺し、味方を死なせてしまった。
その所為で、死ぬまで語り続ける使命を与えられている。

私は、語る為に生かされた、1匹の猫。


『雨の日の猫』





++++++


・・・あの時は、雨が降っていた。
ザーザーと音を立てて。
そんな中に私が1人、佇んで。

その姿を見て、誰かが言った。
「雨の日に猫が1匹、可哀想な猫が1匹」
軽く、歌いながら言っていた筈だ。

その言葉は、頭から離れなくて――――


++++++


雨が降っている。
まるで自分の存在を誇示しているかのようだ。
「・・・これで終わりかしら」
雨水によって弛廃した地面に身を落とす。
鬱陶しいくらいの胸の毛は泥だらけになり、先ほどまでの影は無い。
「……ミュシャ・J・ウォレスト」
自身に話しかける。
生きるように、説得を始めるのだ。
「生きろ。此処で死んでどうなる。今までの道のりはどうなる?
 色々な者の屍を踏み越えてきたじゃないか。どうして此処で止まる?」
傍から見れば狂ったようにしか映らないだろう。
自分自身に話しかけるなど、狂った者しかやらない事だ。
まず手に力を入れる。・・・動く。
次は腕、足・・そして時間をかけてゆっくりと立ち上がる。
「・・・立てるじゃないか。このまま、ゆっくり行こう」
そう言って、歩き出した。
自分は生かされたのだ。
全てを、語る為に。


++++++


「助けて、くれよッ・・ひっ、いやだぁ・・ッ!」
マウントポジションにある自分。
組み敷かれた敵兵、・・・・メリデル側の人間。
殺される(こちら側から言えば殺す、だが)間際にまでなって騒ぎ立てる 敵兵の首筋にナイフを突き立てる。
そのまま、自分の方へ引き抜く。
ぎゃっ、と声を漏らし、敵兵から力が抜ける。絶命。
敵兵の首筋から吹き出た血が、顔面目掛けてかかってきた。
黒ずんだ血で顔を真っ赤にしながらも戦っている・・・

突如パパパパ、とフルオートで連射される銃の音が耳に入ってくる。
新しい、敵だろうか。
小さく身を構え、敵が来るのを確認した時、大きく目の前の藪が大きく音を立てた。
相手に連射される前に、踊るように身をくねらせ相手の首筋へ移動する。
「―――っと。俺だ、俺・・ディザルヴ・R・ソウロウ」
「誰かと思った。ディザルヴ、貴方ね」
殺す所だったわ、と肩を竦めて見せる。
「冗談じゃねぇ、味方に殺されてたまっかよ。それより、ソングは」
紅い頭髪をして、紅いヤーブル特有の耳にはピアスが4つ。
紅い髪は戦場には珍しい。その珍しい髪を彼は、長く伸ばしている。
「ディザルヴ、貴方もいい加減髪を切ったらどう?
 絶対に戦いやすくなるわよ。雨の日も前髪が邪魔にならないし」
彼には何度もそう言ってきている。
だが毎回と言っていいほど、彼は私を断り続ける。
「この髪型は俺のポリシー。邪魔でも何でもいいんだよ。特に接近戦やるわけでもねぇし」
そう、この通りに何度も。
しかし、そう言う自分も自分なのだが。
ウォッキー特有の胸の毛は、実際一度も弄った事は無い。
伸びはするが、特に気にもしていないのだ。
何度かペトルに「切ろうか?」と言われたが、断り続けてきた。
「ミュシャ、ソングは? あいつ無茶しやがるからな」
「ソングはもう少し深い所で戦ってるらしいわ」
「そうか。んじゃ、先行ってるな」
そう言って彼は私の目の前から姿を消した。


++++++


城の中は、怪我をした兵でごった返していた。
それくらい、相手の力は未知数なのだろう。
「・・・レイズィ、何処だ?」
「此処にいます、ダスク様」
怠惰な、という意味の名前とは裏腹にてきぱきと仕事をこなしていく1人の部下を呼ぶ。
「どうだ?」
「もう予算を半端なく上回っています。それと、死傷者は約8000。薬も足りません」
なにが、とは相手も訊いては来ない。
意思の疎通は完璧で、相手も必要な事以外は口を出さない。
「・・・もう、そんなに」
死傷者の中には家族を持つ者もいるだろう。
この戦争が始まってからは、家に帰るなんて事は許される筈が無い。
夫や妻を心の底から心配している家族もいるだろうに。
「仕方無い、か・・降伏の余地は」
「王が許さないでしょう。降伏の余地はありません」
「・・・そうか」
途端に、騒然としていた空気に緊張が走る。

――――王だ。


++++++


「戦況はどうだ、ダスク?」
大きな腹をこさえ、でっぷりとした体を玉座に収める。
耳障りなその声が、耳に響いた。
「は、死傷者は8000を超え、薬が足りない状況になっております」
そういった瞬間だった。
スカールの目は血走り、いつもは青い顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。
「なんだなんだ、その体たらくは!? 此処メリデルはそんなに弱い国か! お前達、この戦争を嘗めているんじゃないだろうな!」
お前の所為でどの兵もろくに修行が出来ていないんじゃないか。
耳障りな大声を直に受け止めながら心の中では王を嘲笑う。
その大きな腹はなんだ。何もしていない証拠ではないのか?
この戦争を嘗めている? それはお前だろう、まるで豚のような体躯で何を言う。
何もしない自分の事は棚にあげ、兵達を叱咤する。
いい身分ではないか。
「王様!」
緊張した空気の中、女の甲高い声が大声を張り上げた。
「王様、貴方の所為でメリデルはこのような状況に陥っているのですよ? 貴方は何もわかっていない癖に、王という身分だけでそこに座っている。 兵に対して叱咤するばかりで・・・自分で戦場へ行ってみてはどうです!」
誰もが声の主に注目する。
そこに立っていたのは、レインス・ウィズバルドだった。
元々兵士ではないが、傷つき帰って来た兵士の看護をしていたのが彼女だ。
普段は物静かで綺麗な茶の髪を静かに垂らしている者なのだが・・・
王への鬱憤が遂に爆発したようだった。
怒りで顔を赤く染め、眉根を力一杯寄せている。
「其処の女、誰だ! このわしを侮辱するとは何様のつもりだ!? もういい、兵達よ、この女を捕縛しろ!」
そう命じられて、誰1人動く者はいなかった。
全員が怪我をしていた訳ではない。看護側の者にも、男はいる。
自分も城の中にいた為、怪我は何一つしていなかったのだった。
「どうした、何方か自分の株を上げたい者は?! ダスク、貴様は!」
目の前にいた所為か、名前を大声で叫ばれた。
「・・・わかりました」
そう答えた瞬間、周りはまた騒然となった。
小さな声で侮辱してくる兵士もいる。
しかし周りの事は気にせず、隣にいたレイズィを呼ぶ。
「・・・逃げるぞ」
「・・・はいっ?」
「いいから、ついて来い」
王には聞こえない程度にレイズィに囁いた。


++++++


「少し走るぞ」
「・・・はい」
レイズィに再び囁く。
少し小走りになった所で、話を進める。
「このまま、レインスに話しかける。そして、駄目だったら気絶させて、了解したら抱き上げて連れて行くぞ」
「・・・って、抱き上げて、ですかッ?!」
「それ以外にどうやって普通の女を運ぶんだ? 兵士ならばまだしも、一般人と殆ど変わらない女だ」
「・・・はぃ・・・」
レイズィは自分について来る。
裏切る事はしないだろう。
信頼という名の餌を心に垂らし、行動という名の魚を釣り上げる。

少し経って、レインスと同じくらいの場所に着く。
「レインス」
彼女に小さく呼びかける。
自分は政治を任され、殆ど彼女と話した事は無い。
「気安く呼ばないで、それ以上寄って来ないで下さいっ」
彼女は体を強張らせて、硬く心を閉ざしている。
「レイズィ・・・すまん、頼めるか?」
「え、僕ですか?」
「そうだ、お前ならレインスも心を開くだろ? 頼んだ」
レイズィは余り気が乗らないようだったが、そっちには目を向けずに今度は王の方へ向き直す。
「スカール様! 今から私めは初めて貴方に反抗致す事をお許し下さい。私は部下が、貴方に仕える事よりも、私の命以上に大切なのです」
声を張り上げて言い放った。
兵達は黙りこくり、王は呆然としている。

「・・・という事なんです。レインスさん、僕達と一緒に逃げましょう? このままじゃ、貴女の命が危ないですから」
「・・・・・・わかりました」
彼女は少し躊躇っていた。
逃げたとしても、結局は殺されるのかもしれない。
根本的な事は変わらない事を知っていたからだ。
「ダスク様! 説得終わりました!」
後ろからレイズィの大声が張り上げられる。
さぁ、戯曲の始まりだ。


++++++


「ダスク様、早くッ!」
「わかってるよ、レイズィ。さぁ、早くしてくれるか、レインス」
彼女が躊躇っているのは逃げる事ではなかった。
・・・さすがに抱き上げられる事が、恥ずかしいらしい。
「・・ッ、でもっ・・」
「いいから! このまま死んだら何の為に反乱を起こしたんだ。 俺等の行動を無にはして欲しくないんだが」
女からすれば、とてもはしたない事だというのは知っている。
しかし、今は緊急事態なのだ。
はしたない、とかそんな事を言っている場合ではない。
「・・・わかりました、レインス・ウィズバルド、此処で女を捨てます!」
そういって長い洋服の裾を捲り上げる。
抱き上げやすいように、との事なのだろう。
「すまないが、失礼するよ」
レインスの頭に手を添え、腰からぐ、と抱き上げる。
「きゃっ・・ッ!」
レインスの顔は赤い。
さすがにこの事に慣れていたら少し困りものだが。
「さぁ、早く行こうか。兵も寄って来た。行くぞ、レイズィ」
「はいっ――――」
兵が近づいてくる中、ダスク・レイズィ・レインスの3人は逃げ出した。


++++++


湿気の酷い、森の中を進む。
ウォッキー特有の胸の毛もそうだが、大きな尻尾までもが湿気に負け、 長い毛はじっとりと水を含み重さを感じる。
「あああああああッ!」
突然木々の間からメリデル兵が剣を持って襲い掛かってきた。
冷静に事を済ませる為に、殆ど声は発さない。

――――死に行く相手に何を言う気?
昔誰かに言われた言葉だ。
誰だったかは、幼い頃の記憶の所為か覚えていない。

大型のナイフのスクラマサクスを右手に持って、メリデル兵を狙う。
相手は大きな剣を所持している所為で細やかな動きが出来ない。
其処を狙って、すばやく首筋を掻っ切る。

首筋・右胸・眉間は急所だ。
其処を狙えとは、それもまた誰かに言われた事だ。
腰にはファルシオンという愛刀を身に着けている。

軽く相手の首からスクラマサクスを引き抜く。
相手は大きく膝を落とし、首からは夥しい程の血液が流れている。
「・・・さよなら」
相手には聞こえていないこの言葉。
死に行く者への最後の言葉。
本当に楽に死ねた? 私のお陰で簡単に。
「ミュシャ姐ッ!」
木々を飛ぶ音。そして、私の名前を呼ぶ声。
「ミュシャ、遅ぇよ、敵いなくなったから来ちまったぜ?」
ディザルヴの声。そして、大きい影と小さめの影。
「・・ソング、ディザルヴ。無事でよかったわ」
「そーんな柄にも無いこと言っちゃって、ディザルヴ兄貴がいるからかな?」
このソングというのは愛称で、本名は海賊を意味するパイアレット・S・トランジという。
年齢は12、3歳前後。まだまだ幼さが残っている顔だ。
「んな訳無ぇだろ? こいつが俺なんかに惚れっかよ」
「まーたまたぁ」
ディザルヴとソングの話は聞いてるだけでも笑みが零れる。
楽しいのだ、兄弟を感じているようで。(勿論、2人は兄弟ではないが)
「2人とも、話はそれくらいにして。1度基地に戻るわよ」
「はぁい」
「わかった」
2人の返事を聞き取り、3人は基地へ移動した。


++++++


「さすがにこれは危ないか・・」
レインスを腕にしっかりと抱きとめながら、小さく呟く。
「あの、大丈夫ですか? 私、降りますよ??」
レインスの心配そうな声が響く。
「大丈夫だよ、それよりレイズィを心配してやってくれ」
急に走った所為だ。彼は息を切らし、殆ど歩いている状態に変わりない。
・・・どうしてかダリガン兵はいない。
最低限の人数で戦っているのか、それとも相手も互角の数死傷者が出ているのか。
「ダスク様、ちょっと・・待って・・・ッ下さい」
「大丈夫か? 少し休もう、敵兵はいない」
「・・・ッはい、ありがとうございます」
1度レインスを降ろし、近くの木陰に身を沈める。
レイズィも少し経ってから着いて、木陰で休み始めた。
「っはっ、はぁ・・・すみません」
「そんな気に病むな。元々お前も兵ではないんだ、体力が無いのも頷けるだろう」
そう、慰めているつもりだったが相手は意味を逆にとってしまっていた。
少し俯き、今にも泣き出しそうな雰囲気を漂わせている。
「大丈夫だと思いますよ? 兵の方にも体力の無い方、力の弱い方、よく怪我をして私の所へ来る方も居ますし」
レインスはそう言ってレイズィを慰める。


レイズィ・L・コカリオとは、昔話題になった犯罪者の名前だ。
何故か1語1句誤りの無いその名前は、犯罪者とはかけ離れた存在の彼に名付けられた。
しかし、その答えは簡単だった。
彼自身が、その張本人だったのだから。
犯罪者のレイズィ・L・コカリオは今此処に居るレイズィと同一人物なのだ。


「ダスク様、もう大丈夫です。いつまでもいるのも気が引けますし、行きましょう」
「あぁ、そうしようか」
そう返答をした瞬間、突如後ろの藪が大きく音を立て、3人のダリガン兵が出てきた。


++++++


「・・・しっ、誰か居るわ」
人差し指を口に当て、後ろの2人に呼びかける。
「んー・・・声からして女の子2人に男1人だね」
「俺もソングに賛成」
ソングは人の声を少しだが聞き分けられる。
男か女は簡単に聞き分けられるらしいが、しかし、声が高めの男だったとしたらそれを女、と聞き間違える事は多々ある。
そして此処は戦場の真っ只中だ。
女が2人で男が1人。それは殆どありえない。
「ソング、もしかしたら男が2人、女が1人もありえるわね?」
「うん。1人息が切れててよくわからないからね」
「・・・そう」
もしかしたら男が2人なのかもしれない。
一か八かの賭けに全てを賭ける。
相手が自分以上に強ければ負けるかもしれない、死ぬかもしれない。
そんな事を考えながら、2人に出撃の合図を出して藪を抜ける。
目の前には、ユニー特有の角を持つ者、キリーの男、アイシャの女の3人だった。
「・・・・・・チッ」
苦虫を噛み潰したように顔を歪め、愛刀を構えた。


++++++


「厄介だな、男2人か」
ディザルヴは隣で控えている。
ソングは後ろだ。
私達が死んだ時、1番身軽なソングを逃がす為だ。
「ディザルヴ、私が行くわ」
ディザルヴに接近戦は合わない。
三脚が必要なくらい重いヘヴィー・マシンガンをフルオートで打ち続ける。
それが彼の戦い方だからだ。
自分は違う。
接近戦を得意とし、常に腰には刀、手には大型のナイフを身に着けている。
「・・・死ぬなよ」
「此処で死ぬ気は無いわ、お生憎様」
「そーかい」
そんなやりとりを彼としながら、1番手っ取り早そうなユニーの男を前にした。


++++++


「レイズィ、レインス・・ッ!」
目の前の3人は、全員種族が違う。
ウォッキーの女、背の高いヤーブルの男、まだまだ子供のクーグラ。
「・・・ダスク様、どうしましょうっ!」
早速、腹に一発入れられた。
蹴りを入れられたのだ。
まぁ、相手の持っていたナイフで刺されるよりはマシだが。
次は絶対にナイフで来るだろう。
・・・その前に、どうやって2人を自分から引き離すかだ。
「逃げろッ・・レイズィ! なんでもいいから、早く!」
「・・・五月蝿い」
また腹に一発。
胃をピンポイントで叩かれる。
喉には焼けるような感覚。
胃の中の物が戻ってきている証拠だった。
「ぅえっ、げっ、げえぇ・・・ぁふッ、ハッ・・ハァッ」
何度も蹴られ、のた打ち回った。
「・・・やっぱり、簡単だった。貴方、1番弱いでしょう」
ぽつ、と囁かれた言葉。
「なにッ、を・・言ってる! げほげほっ・・が・・・」
「・・・けれど、頭は良さそうね。貴方、私と取引しない?」
ウォッキーの女はそう問いかけてきた。

どうしろというのだ。
自分の後ろではレイズィが五月蝿い。
「ダスク様、ダスク様ッ・・!」
頭の整理が付かない。
少しくらい、黙ってくれればいいものを――――
「どうするつもり、だっ・・!」
「そうね・・・貴方がダリガン側にくればいい」
「・・・は・・・?」
呆気に取られた。
誰がこんな弱い敵側の兵士を味方にしようと企む?
「早くしてくれない? 仲間、殺しちゃうわ・・」
相手はすぐにすぐにと急かしてくる。
「・・・・・・わかった、その代わり、俺の仲間を殺したりしたら」
続きを言おうとした瞬間、口元にナイフが突きつけられる。
「じゃあ、交渉成立ね。さぁ、立って」
濃い緑色の手が差し伸べられる。
・・・そして手を借りつつ立ち上がる。
「レイズィ、レインス。ダリガン側になり、メリデルへ反抗意識を発表するぞ」
「・・・はい、ダスク様」
「わかりました」
2人は先程までの話を全部恙無く聞いていたようだった。
「両方承知だ。さぁ、行こうか・・」
こうして、正式にメリデルを裏切ったのだった。


++++++


扱い方は捕虜となんら変わり無いだろう。
ロープで手を縛られ、武器なんて持てない格好だ。
「ごめんねぇ、レインスさん。基地に着いたら早速解いてあげるからさ♪」
「いえ、いいんです。メリデルから出られた事にもう満足してますから」
「そう? それじゃあもう少しで着くから待っててねぇ♪」
テンポを踏むように軽く言いながら、クーグラの子は言った。
「君、名は?」
「ボク? ボクの名前はパイアレット・S・トランジ」
「ソング! 軽々しく名前を名乗らないで! ちゃんと覚えなさい」
ウォッキーの女はそう言ってまた前を向き歩き出した。
「もぉ・・何怒ってんだろ」
頬を膨らました。やはりまだまだ子供のようだ。
「ソングというのは? 君の名ではないだろう」
「あぁ、それはね、ボクの愛称! よく歌唄ってるからだってさ」
それは何処でなのだろう。
戦場で歌を唄っているという事なのだろうか。
「ソング、俺と代われ。お前余計な事まで言いそうだからな」
「えぇー、何それ。しっつれいだなぁ、ディザルヴ兄貴の癖にー」
「どういう意味だっつぅの、いいから前行け」
「はぁーい」
先ほどの背の高いヤーブルが隣へ来た。
ヤーブルの背丈は自分よりも10cm程高く、肩には大きな散弾銃を担いでいる。
「何か訊きたい事は?」
いきなり話しかけられた。
そして表情が柔らかい事から、多分性格は温和な方だろう。
「貴方・・名前は?」
口を挟んできたのはレインスだった。
「俺か? ディザルヴ・R・ソウロウ。アンタは?」
ウォッキーの女はまた神経質そうに耳を動かした。
「ディザルヴ?! もう・・貴方もなの・・・基地に戻るまで自己紹介はしないつもりだったわ」
彼女は呆れながらに溜息をついて足を止める。
「いいじゃん、ミュシャ姐。もう基地に着くんだし、早く行こっ♪」
話しながら歩いていた所為だろうか、目の前には、こじんまりとしたダリガン基地があった。


++++++


「・・よいしょ・・」
重そうな扉をウォッキーの女が押し開ける。
ディザルヴが扉を支えてくれていたお陰で楽に基地内に入れた。
「ありがとうございます」
「別にいい、それと早く自己紹介しようぜ、ミュシャ」
軽々と扉を引き、閉めると早速少し綿の出たソファーに腰をかけた。
「待ってて、ペトル呼んでくる」
そう言ってソングは基地の奥へ行った。
「ペトルと言うのは?」
「待ってな、今から来る」
ロープはまだ解かれていなかった。
その所為で少し手首がひりひりしたが、殺されるよりはマシだろう。
「はいはーい、呼んできたよぉ♪」
ソングが出てきた。後ろには同じ位の背丈のループがいた。
「あの・・ソングちゃん、何なの?」
「んー、自己紹介始めるんだって。新しい仲間が増えたからね」
「・・・そうなの。新しい仲間・・って何方?」
少し話し方は拙い。
背格好からして多分、ソングと同じ年齢だろう。
「あの人とあの人とあの人だよ、メリデルから逃げてきたんだって」
「おいおい、いいから早く座れ。自己紹介は今からやるんだから」
ディザルヴはソングを制すと、2人とも同じ、大き目のソファーに座らせた。
するとウォッキーの女がぱんぱん、と手を叩いた。
皆が一斉に注目する。
「じゃあ、今から始めるわよ。誰からかしら」
そう言うと、ソングが誰よりも早く手を挙げた。
「はいはーい! ボクとペトルが1番初めにやるよー!」
「そう、じゃあ決まりね。いいわ」
この後、ソングのマシンガントークが始まる。
「初めまして、ボクの名前はパイアレット・S・トランジ。性別は女で、使ってる武器は銃! フルオートでディザルヴ兄と一緒に打ちまくってるよ! どうぞよろしく♪」
はい、ペトル!と大きな声で言うと、隣のループの子は小さな声で話し始める。
「初めまして・・。私の名前はペトル・S・トランジです。・・女です。隣のソングちゃんとは双子の兄弟・・です。それと・・私は救護担当です、よろしく・・お願いします」
ゆっくりと、自分のペースで言い終わる。
種族も、性格までも正反対な2人は双子だという。
「じゃあ、次は私ね」
「いや、ミュシャは最後だ。次は俺」
考え事をしている内に話は進む。
「俺の名前はディザルヴ・R・ソウロウ。性別は男。得意な武器はこいつ」
そう言って肩に担いでいるマシンガンを軽く叩く。
「こいつは俺の相棒なんだ。接近戦は苦手」
恥ずかしそうに笑い、今度はそっちの番だと自分にバトンが渡される。
「俺の名前はダスク・E・ヴィーザ。男だ。余り戦闘は得意じゃない。武器として使っているのはこの、レイピアだ。よろしく頼む」
腰につけているレイピアを一息で引き抜く。
ソングが歓声を上げるが、他の者は静かにじっと、こちらを見ている。
「・・・そのレイピア、余り使っていないでしょう?」
ウォッキーの女が言う。
自己紹介は最後だ、とディザルヴが制したお陰でいまだに名前がわからない。
「あぁ、スカールに政治全般全てを任され、殆ど訓練も出来ていなかったからな」
「そう・・・だからあんなに弱かったわけね」
その言葉が心に刺さった。
政治を任されたから、そんなのは言い訳に過ぎない。
自分自身余り強い方でもなく、戦闘は不向きな体つきでもあった。
・・・しかし腹違いの兄は戦闘能力に長けていた。
今もきっと、部下達に指示している真っ最中だろう。
「・・・レイズィ、代われ」
「えっ、あっ、はい! えっと・・僕の名前はレイズィ・L・コカリオです。男です、一応・・。えっと・・主に事務の仕事をしているんですけど、使う武器といえばこのメイル・ブレイカーを使っています。よ、よろしくお願いしますっ」
やや早口に自己紹介を終えると、彼は軽く頭を下げた。


何か、嫌なにおいがする。
感じる"これ"についてはまだ誰にも話していない。
いや、まだ誰にも話すべきではないのだろう。
何かが、自分を止めているのだ。


「レインス・ウィズバルドと申します。レインスとお呼び下さい。私はメリデルで、ペトルさんと一緒で看護側の人間でした。ペトルさんのお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
レインスはそう言ってペトルに微笑みかける。
「はい、私も助かります」
ペトルもレインスに笑みを零し、とても嬉しそうだった。


++++++


「・・・あれ? ミュシャさん、あの檻どうしたんですか?」
ペトルがミュシャに問う。
檻はペトル達の背の高さくらいで、童話などで出てくるような簡素なものだった。
「ペトルは知らなくていいの! さ、早く戻ろっ」
ソングがペトルの背中を押す。
「えっ、ソングッ、ちゃん、ちょっと・・」
ペトルは他にも何か言いたげだったが、ソングがさっさと連れて行ってしまった。
「・・あれ、なんなんだ? 俺にも言えないか」
「本当は貴方達も知る必要は無いのだけれど・・この事は他言無用よ」
短く返事を返す。レイズィとレインスはついてこない。
「貴方達とは・・今は違うわね。捕虜・・いや、人質と言ったかしら」
ミュシャは少し口角を吊り上げ、まるで嘲笑しているかのような表情をして見せた。
――――捕虜?
今の所、メリデルにもダリガンにも捕虜はいないものだとばかり思っていた。
檻は窓の方を向き、人影はまったく見えないようにされている。
「・・名前は? どちら側の人間だ」
「名前はエイパス、中立の立場にいるわ。いわゆる・・情報屋ね」
「情報屋? 情報屋にはNPを支払って情報を取りに行かせるんじゃないのか?」
情報屋を捕虜にしていても特にいい事は無い。
本来ならば、NPを支払ってスパイさせる事が目的で、捕らえてしまったら情報屋がすべき仕事を奪ってしまう事になるのだ。
「彼は同じく中立の立場にいるウィルフル・ハベンダ・ボルドーという名の女の下で働いているの。正確には、いた、なのだけれど。彼女に無償で情報を取って来させる為に彼を捕まえたのよ」
檻の中で、少し物音がした。
女の名前をミュシャが口にした瞬間、檻の中で彼が動いた。
「彼女が戻ってきたらもう彼は放すわ。でも、一向に帰って来ないの。部下が捕虜にされていても。拷問を受けてる、と言っても・・ね」


++++++


ミュシャから話を聞いている最中に、大きな物音とともに基地内が騒がしくなった。
「どうした!? 誰か、傍に来て説明をしろ」
バタバタとダリガン兵達が走り回り、ソファーに目を向けると、座っていたディザルヴ達は途端に姿を消した。
「ミュシャ殿、巨大な飛空艇が姿を現しました!」
ミュシャの前に転がるようにして出てきた兵士は心底度胸があると思う。
予想外の事に混乱し、どう対処してよいものかと考え込んでいる時に、最悪のタイミングで転がり込んだのだから。

――――まったく・・・少しは自分等で対処したらどうなの。
混乱した頭を冷やそうと、軽く首を回す。
「報告はもういいわ、貴方は戻って。飛空艇なら、大方ボルドーでも帰ってきたんでしょう」
混乱している兵士にもほとほと呆れた。
自分の部下でありながら、いや、カース王という冷静沈着な主君の下に仕えながらもどうして冷静でいる事を学べないのだろう。
「あ、ダスク、檻の鍵を開けて。間違っても貴方が人質にとられないようにね」
故意に毒づくような言い方をする。
しかし、本当の事なのだ。さっきの言葉は、警告でもあるのだから。
「・・わかってる」
顔を檻の方向に向けつつ、ダスクが言った。
「鍵はテーブルの上にあるわ。失くさないでね」
「あぁ、わかったよ」
さて、飛空艇は少し違う所に着陸してもらおうかしら。
このままだと、相手側にこの基地の場所を晒す事になりかねない。
「誰か、耳つぶしトランペットを持ってきて。それと、それを私に渡したら、私の傍には近寄らないよう周りの者へ指示をして」
「はっ、承知しました」
そして私は、大きく息を吸い込んだ。


++++++


メリデル城では、スカールが大きく声を荒らげ、どうしようもない怒りを傷つき帰って来た者達にぶつけていた。
「まったく、どういう事だ! 儂には到底理解できんぞ! ・・・給仕、食事の用意をせよ。儂の分だけだ」
先程まで怒鳴り散らしていたと思えば今度は食事。
大きな肉を頬張り、これでもかと豪快に食べつくしてしまう。
兵士の喉は大きく音を立てて鳴る。
それも当然の事。兵達は皆、殆ど何も食べていなかったからだ。
「・・・おやおや・・・。また1人でお食事ですか? 陛下」
馴れ馴れしい感じを出しながら、スカールに話しかけるのはイエロー・ボーリのカインド・カリッジ・オウンだ。
「おぉ、カインド。どうだ、作戦は順調か?」
カインドの姿を見ただけで怒りで赤くなった顔も青に戻り、表情はほころびはじめる。
「順調ですよ、陛下。少しずつですが敵兵も減ってきました。・・・ただ、やはり武器が足りない所が難点ですね」
「そうか・・武器か。もう少し前線への武器を減らしそちらに回そう、それでよいな?」
にこにこと顔をほころばせながらカインドに問う。
当の本人は殆ど聞いていない様子でもあった。
「・・あぁ、はい。前線の者には少々我慢してもらう事に致しましょう」
本来ならば逆だった。作戦には少々武器が足りなくとも問題は無い。
戦略に関して、カインドは天才の名に相応しい程だった。 そう、このボーリはわざとやっているのだ。
王が自分の事を少なからず気に入っている事に漬け込んで、色々と汚い事までやりつくしているのである。
「では、陛下。たっぷりお召し上がり下さいませ。・・おっと、この事を言いに来たんだった。陛下、反逆者についてどう処分いたしますか?」
スカールの食する手がぴたりと止まる。
「あぁ、あやつらの事か。反逆者となっては放っておくわけにもいかんか?」
「えぇ、わざわざ反抗声明まで出してくれましたからね。しかし殺すにも今何処にいるかわかっていませんし・・・」
「それに関しては問題ない」
「え?」


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自分の周りから人がいなくなった事を感じると、彼女は大きく息を吸い込み声を張り上げる。
「ウィルフル、来てくれて嬉しいわ。でも、その大きな船を移動してくれるかしら。・・・邪魔だわ」
本当に、その名に恥じないと思う。耳を潰すようなその音でトランペットはまだ鳴り止まない。

―――すると、銃声が響いた。

少し彼女から遠くにいた所為かもしれない。
彼女は無防備な姿のまま、数発の銃弾に手足を撃たれた。
自分の手には一本の鎖。彼を繋いでいる鎖だ。
彼女に任された事を終わらせ、たった今基地から出たところだった。
数発の、銃声。
それは飛空艇が連れたメリデル兵が彼女に発砲したために鳴った音だった。
「ウィルフルさん・・?」
彼はポツリと声を漏らす。するといきなり彼は襲い掛かってきた。
「オレを誰だと思ってた! 天下のウィルフル・・の部下だぜ?! ・・・嘗めてもらっちゃ、困るんだよ!」
彼の目には涙が溜まっていた。
首からは小さなロケットと水色のゴーグルを下げている。
怒りのためだろうか、小刻みに体が震え、大声を張り上げ続ける。
「しばらく、大人しくしててくれよ・・・・?」
知らない間に彼の後ろに回っていたのはディザルヴだった。
眉はハの字で、口角は上げていたが引き攣っていた。
そして、悲しげな瞳の奥には憎しみがこもっていた。
「な・・! いつの間っ―――」
彼の意識が途絶えた。
おそらく、ディザルヴが気絶させたのだろう。
「ダスク・・お前は此処にいろ、な? 俺は行ってくる」
ディザルヴに返事を返すと彼はさっさと行ってしまった。
――――彼女は、どうなったのだろう。
少しだが、気になった。


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「・・・あはっ、あははっ、あはははっ」
銃を持った白髪の女が狂ったように笑う。
「これでいいの?多分これで死んだよね。あはっ、いくらくれるんだっけ?」
隣のメリデル兵に女は尋ねる。
「これでいかがでしょう」
大き目の麻袋には目が眩むほどNPが詰まっていた。
女は中身を見ると紅い目を輝かせいやらしく微笑んだ。
「それじゃあエイパス探さなきゃ、可愛い弟子だもんね♪」
降下した飛空艇から軽く飛び降りると女はそう言った。


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「ミュシャ・・ッ!無事でいてくれよ・・・?」
草を掻き分け走り続ける。
彼女がいた所は此処から余り遠くは無かった。
異常に遠く感じるのは今の状況の所為だろうか。


あぁ、俺の愛しき人。


その綺麗な肌にいくつの傷が残るのか。
それを考えただけで撃った奴への殺意が沸いた。
早く行かなければ。早く、早く。
「・・・ミュシャッ・・・!」
もうすぐその白い肌に手が届く。
その小さな間に、またもや一発の銃声が響いた。
「・・・ッ・・・!!」
声は噛み殺したが撃った相手はすぐソコ。

「・・・へぇ。まだいたんだ。隠れてたの?馬鹿みたいに丸見えだったよ」
冷酷な、女の声。


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