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『必然、偶然、光の奇跡。』
最新更新 8/2
第六話突入。
毎日チョビチョビ更新中♪
出演者様紹介はこちらです♪
音楽は
からお借りしました♪
※擬人化要素有りです
第一話 光り輝く暗転の夜。
第二話 悪夢の夜に町は堕ちて。
第三話 双子の死神。
第四話 黒紳士と白紳士
第五話 一人部屋。
第六話 リセット。
相互して頂いてます♪黒江様の小説ページ。自分とは、比べ物にならないほど、素敵です!
次章最終回の、「記憶の鎖」が、おすすめです♪
第一話 光り輝く暗転の夜。
世界に光なんて無かったのかもしれないけれど
世界は酷く綺麗だった。
頭の中に響き続ける、言葉。
その声は妙に透き通っていて、とても綺麗で、とても掠れていた。
―――世界は偶然で必然的なモノ。そして、あなたは光の奇跡。
そう、言葉が告げた。何を意味するのか何も分からない。
ただ、その声が、とても懐かしくて。心の中で、いつまでも廻り続けた。
―――光のキセキ。
それが彼を変える言葉だった。
「・・・・っ!」
目が覚めると、汗でベッドがびっしょりだった。
別に苦しい夢でもないし、悪夢だと自分は思わない。でも、酷くあたりはぬれていた。
まだ、頬に汗がつぅ、と流れた。
はっはっ・・と犬のように息が荒く、寝ていたはずなのに疲れていた。
彼――くるすは、カーテンを開けて窓を思いっきり開けた。
朝の光が眩しい・・・そう思ったとき、下から声がした。
「遅いよっ!起きるのっ!」
お向かいのパン屋さんのお姉ちゃんだ。
パンを沢山詰め込んだバスケットを持っている。パン屋さんから御婆ちゃんが出てきた。
「もう、お昼よぉ~」
呆然としていたくるすは、素早く時計を見る。
時計は容赦なく時間を進め、今、13:00と、デジタル時計くんは時間を変えた。
「・・・・あ」
違う意味での汗がたらりと流れる。そして――
「あぁぁぁぁあああっ!?嘘だろう!?マジで!?寝坊じゃんかよぉぉぉおっっ!」
ぐわっしゃぁんっとデジタル時計くんを投げて、くるすは大急ぎで服に着替え、歯磨きを済ました。
ドタドタと音を立てながら、廊下を走り抜けて、ドアを開け、素早く外へと飛び出した。
外は晴天。うん、今日も良いことがありそうだ―――。
* * *
「こんにちはっ!」とくるすが急いで挨拶をすると、女の人は優しく「こんにちは」と会釈する。
男の人たちは、「おぅ!遅刻かい?」と少しおちょくってきているが、それは無視する。
走って、走って、走り続けているうちに、だんだん面倒になってきた。
いつも前向きな彼だが、今回ばかりは鬱陶しい。
これは、ないだろう。
「ぐあぁぁあっ!なんでこんな時に限って、迷ったんだぁっ!」
見たことも無い十字路に来てしまった。
ずぅぅっとまっすぐ進む四方に広がった道は、くるすをさらに惑わせていく。
眼がぐるぐる・・・と回ってきた。
こんなの狂いそうだ。もう、遅刻決定打だ。そう思っているときに、救いの手は伸ばされた。
後ろから聞きなれない声が聞えた。
「そこ。左」
短く誰かはそういうと、左に行ってしまった。
見たことも聞いたこともない声で姿だったが、信じて、くるすは左に曲がった。
くるすは無事に、とある場所に到着した。と言っても、学校だ。
思いっきり遅刻。門から先には行けない。
体育の史上最凶のオトマトペ先生がいるからだ。
ちなみに、このオノマトペ先生の本名は、心音 音真と変な名前で、必ず会話にオノマトペと呼ばれる擬音語や擬態語を使うから、オノマトペ先生。
だが、こんなオノマトペ先生。じつは、最凶なのである。
最凶に恐くて、最強に強い。
見つかれば、オノマトペ地獄に落とされるのは確実だった。
「くはぁ・・・。こんな日に限ってオノマトペ先生とか最低だなぁ・・・」
オノマトペ先生はくるすが、最も苦手とするタイプだ。何より―――しつこい。
意味不明なオノマトペを無理矢理入れすぎで、気持ちが悪い。
だが、逃げ切ることはできなかった。
「どうしたのかなぁ?どろどろと溶けそうな暑さの中立ち呆ける、くるすくん?」
「ほぃやぁっ!?」
突然の出来事過ぎてくるすの叫びは、それこそ変だった。
オノマトペ先生は、裏口からいつの間にか回ってきていたのである。
「フフフフフゥ♪無駄だよ。しゅわしゅわぁっ、となってるキミの顔からして、僕からするりと逃げるつもりだろう?」
くつくつとオノマトペ先生は笑う。
どうやって逃げようか。それしか今、頭には無い。
もう、あれしかない。フォーメーションA。
ピッ、とくるすは何処からか持ち出したホイッスルを鳴らして、笑った。
オノマトペ先生の顔に困惑が浮かぶ。
「な、なんだ・・・?その、にたりと微笑む顔は・・・。僕がぐちゃっと喰われるかのような・・・」
くるすはくつくつと笑う。
だって、これは――ただの脅しなのだ。ただ、鳴らして笑っただけ。
こんな時に、誰かが来るなんて偶然無いだろうが。
偶然。必然。多分、コレは必然。
校内から一人の少女と、校外から一人の少年。そして、裏口からもう一人の少年が現れた。
神様、ありがとう。
くるすはそう思いながら、彼らを見つめて、「助けろ」と口パクで指令した。
まったく他人だが、此処の学校は、優しすぎるのだ。
少女は笑い、少年達は無表情でこちらに来た。
オノマトペ先生の顔には皺が。
「な、な、なんだっ?!まるで僕が、どろどろに溶けちゃうみたいじゃないかっ!」
意味不明だ。
一人の少年が口を開けた。
裏口から出てきた彼だ。
「どうせなら、擬音語野郎。その擬音語たちに紛れて苦しめ」
少年が苛立ちを見せ、首にかけていた金色のネックレスを握り締めて――。
何の危険を察知したのか、三人は少年を止めて、学校から遠ざかった。
「おぉ~い。スバッと速く、ふわりと消える少年達よぉい」と、何か聞えるが無視して、彼らは走った。
* * *
はぁっはぁっ・・・と息を切らしながら、三人は少年をお嬢様抱っこをし合って、裏路地まで走りぬけた。
少年はムスッとした顔を見せたままである。
「あのなぁ・・・。誰だか、知らねぇケド、あんなコト・・・」
「五月蝿い。喋りかけんな」
くるすが何か言おうとした途端、少年は冷たくし、そっぽを向いてしまった。
「助けてやったのに、それはどうかと思うぜ?」
「黙れ。ツンデレ。俺は助けてなんて言ってないだろう」
ツンデレと言われてしまった彼は少ししょんぼりして、後ずさった。
「でもさぁ・・・」
「―――黙れって言って・・・」
少年が少女にも言おうとしたら、言葉は途中で途切れた。
「駄目じゃん。そーゆうのってさぁ♪」
彼女は純粋な笑みを見せて言った。
少年はギッと少女を睨んで、「笑うな」と一言。
少女は口をムムッとしたが、また、笑った。
「そういえばぁ~・・・・」
パン、と可愛く少女は手を叩く。
「自己紹介しよっか?ホラ、一緒に学校から逃げた仲でさぁ♪」
うんうん、と一人で頷きだした。三人は困り果てた顔をしながらも、乗せられていく。
「あたしはねぇ、空音っ♪よろしくぅ!ハイ、次!」
左にいたツンデレくんが、「え?おれ?!」と戸惑って自己紹介を始める。
「えっと・・・空無。宜しくな」
そして、同じ動作を、くるすに向ける、え~っととやはり戸惑いながら
「く、くるすです。よ、宜しく?」
何故か聞いてしまった。同じ動作をノリでムスッとした彼へ向けると短く「・・・不知火」と終ってしまった。
ニタリと空音が微笑んで、次はぽんっとひらめきのポーズを見せた。
「これからは、フレンドリィに呼び捨てでいこうっ!決定!」
何だかノリでこうなってしまった。
「うぇえええええっ?!」
と、少年らの声は響く。
ノリで三人の友達が出来てしまったくるすは、少し困りながら家へ戻っていった。
あれから、「友好を深める会だぁ!」とか、またノリでプリクラとやらを撮らされたり、なんやらで、目眩がして、フラッシュに酔いだした。
特に不知火は露骨に嫌な顔を出して、振り回される前に逃げ切った。
「ぐ・・ぐぞぉ・・・。な、なんづぅ・・お゛、女ダァ゛・・・」
無理矢理濁点を付けながら、くるすは家へどさりと倒れこむ。
ひやりとした廊下がやけに気持ちよく、このまま眠りそうだったが、すぐに立ち上がってくるすは、ベッドまで必死に歩いた。
時計を見れば、もう七時。こんなに疲れたのは初めてだ。
今日は日が落ちるのが、異常に早く、もう真っ暗だ。
お天と様は、起きるのを諦めたかのように、一瞬で落ちて、夜は望んでいたかのようにすぐに起きた。
少し不気味な夜にも感じる。ひんやりと心地よいようで、気味の悪い風と、日の落ち方。そしてこの、人気の無さ。
今日は一体、何の日だっただろう。
七時ごときでこんなに静かになるような場所ではない。
何かあるのだろうか。
くるすは少し、受話器を持って、お向かいさんに電話をかけた。
プルルルッ・・・プルルルッ・・・
コールが鳴りはじめる。
プルルルッ・・プルルルルッ・・・・
ドクドク、と心臓が早まり、コールは響く。
プルルルッ・・・プルル・・・ッッ・・ルルルッ・・・
今、途中で変な音が入った。
プツッ、と一回切れたようになってから、もう一度少し鈍った音で鳴り続けた。
くるすの心臓は、だんだんと速くなる。
ルルルルッ・・・プルルルッ・・・・プッ
繋がった。
くるすは、「あ、おばちゃん?」と聞いた。
「・・・・」
返事は無い。だが、フシューと酷く荒い息遣いだけが聞える。
ホラー映画のようだが、本当に恐い。これは実感すれば、本当に恐い。
ヒューヒューと、人の息遣いが近くなる。
そして、声。
「世界・・・ハ闇・・・ニ染マ・・・ル・・ノ・・・」
片言で聞き取りにくく、途切れ途切れだった。
だが、紛れも無く、お向かいのお姉ちゃんでもおばちゃんでもない。
じゃぁ、一体、誰だと言うんだろう?
ホラー映画のようなモノだろうか。だが、有り得ない。
そんなモノは現実的には無いのだ。
そう、だから―――。
「人ハ・・・・闇・・・ヲ創ッテ・・・自ラヘ・・・ド・・・ガエ・・・ッデ・・・ギ・・・」
壊れた機械のように言葉を必死に並べる。
ガチガチと向こうから、歯が当たる音がした。
ガチッ・・・ガチガチッ・・・・
くるすは言葉を発することもできずに、その音をただひっそりと聞いていた。
ガチッ・・ガチッ・・・グチュリ
変な音に代わり、そこから、ぐちゅ、ぐちゃっと、何かを咀嚼するような音が受話器から聞えてきた。
「なっ・・・・?!」
突然すぎる恐怖にくるすは、困惑の表情が絶えない。
ぐちゅり、ぐちゅ、と何かを噛み砕き、ごくんと飲み干す音が聞えた。
そして、それだけ聞かせてプツッと電話が切れた。
だが、くるすは受話器を持ったまま動かなかった。いや、動けなかった。
眼を見開いて、受話器から聞えた音が、頭に残る。
今日は良い天気で、満月が見える。
だがそんな光は無く、夜を照らすものは全て消え去り、
夜は暗転の世に変わる日を待っていたかのように、全てを闇で包み込みだした。
第二話 悪夢の夜に町は堕ちて。
夢は、人の記憶を整理して、人の希望を見せるもの。
だけど逆に、人が恐れる負のモノを見せる。
くるすは、愛用であるボウガンを持ち出して外へゆっくりと出た。
闇は増して、辺りは暗く、電灯さえも付いていない。
不気味な闇が、くるすを包みだす。
狂いそうな程の闇。そして、心を覆いだす不安。
くるすはそっと、だが俊敏にお向かいのパン屋へと足を踏み入れる。
どくっどくっと心臓の音が聞えるほどにまで、中はしんと静まり返っている。
「・・・・・・」
くるすはゆっくりと不法侵入者のように(実際そうだが)入っていく。
だが、おばちゃんたちが何処にも見当たらない。
どくっどくっと心臓が早まった。そして―――
ぴちゃっ
と、一滴の水が大量にこぼれた水に落ちるような音がした。
それは一つの部屋から聞えてくる。ぴちゃっとまた、音がした。
刹那に、甲高く、耳を劈くような悲鳴が何処からか響いた。
「嫌あぁぁぁあああっ!あぁぁぁああああっ!」
くるすはハッとして、すぐにその悲鳴の元へ走り出した。
これから見るのが、"悪夢"とは知らず。
くるすの目の前に広がるのは、赤だった。
ただ、世界は赤い。そして、この部屋も赤い。
赤に染まるおばちゃんがいて、その横には、だらりと受話器がぶら下がっていた。
その横では、お姉ちゃんが泣き叫んでいる。
「嘘ッ!こんな・・こんな、悪夢なんて・・・」
ぐじゅぐじゅと言いながら、彼女は泣き叫ぶ。
くるすはただ、その光景を見るだけで、精一杯だった。
声をかける事さえもできない。だって――恐いから。
今、自分がコレを見ているだけでも自分が可笑しいと思える。
くるすは眼を逸らして、吐き気をぐっと堪えた。
酷く嗚咽感が巻き起こってくる。
そんな時、窓の外に黒い何かが笑って見えた。
それは"闇"。そして、重要な"鍵"。
くるすは、泣き叫ぶ彼女を置いて、その"闇"を追っていった。
* * *
「・・・来たんですか」
クスリと"闇"は笑った。いや、"黒紳士"は微笑んだ。
くるすは、じっと"黒紳士"を見つめる。
彼はクスクスと、人を馬鹿にしたような笑いを見せる。
「・・・・お前、知ってるんだろ?」
ぎゅっ、と拳を握って"黒紳士"に問う。
「お前、この事。何か知ってるんだろ?」
ただただ、"黒紳士"は微笑んで言う。
「さぁ。僕は、あなたに協力する善なんかじゃない。でも、知ってますよ」
鋭い瞳がくるすを見据える。
その瞳に全てを囚われそうだった。このまま、闇にとっぶりと浸かってしまいそうで。
くるすはすぐに、眼を逸らした。だが、言葉は続く。
「・・・善じゃなくてもいい。悪でもいい。だから―――教えてくれ。これはどういう事だ?」
「・・・・言う必要はありません。僕にメリットがありません」
カチャッとくるすはボウガンを"黒紳士"に向けた。
「・・・・言え」
だが、"黒紳士"は笑ったままだ。
その笑みは、とても優しくてどこか冷めていて、異常に不気味な表情だった。
「恐い顔をしないで下さい。僕は争いは好みません。ですが、僕はそんな役目は与えられていないんですけれどね。"神様"から」
「・・・・・神様?」
「あ、余計な事でした。今のあなたにはまったく関係のない人物ですよ」
「今の、俺?」
「痛いトコばかり突かないでください。意外に、くるすくんは勘が良いんですね」
彼はにっこりと笑った。
・・・・・今、コイツ、何て言った?
「・・・どうして、俺の名前を・・・?」
「くるすくん。痛いトコばかり突いてくると、僕は僕で逃げたくなりましたよ。紳士ですけれど、僕は自己中心的なんです」
ピッと腕を真上に振り上げて、"黒紳士"は言った。
「さよなら。"光のキセキ"くん?・・・"純粋な光"と"疾風の白い風"を輝かせてくださいね」
しゅっと素早く腕を振り下ろして、風がおきた。
そして、"黒紳士"はその場から姿を消した。
くるすは唖然をして、すぐに意識を取り戻すと、パン屋さんへ走り戻った。
* * *
赤に染まった部屋に、お姉ちゃんがグスッと泣いている。
その表情は寂しそうで、悲しい。
「・・・・御免」
くるすはふいに謝っていた。そして、自分も泣いた。
「俺が・・・俺が守っていれば・・・良かったんだ・・・・。だって・・・あの時・・・異変に気づいてたとき・・・・こっちに着とけば・・・・」
グズッグズッと音が聞える。
「おばちゃんだって・・・・こんなんにならなかったし・・・・皆・・・明日も・・ヒック・・・笑顔・・ヒグッ・・・で・・・グッ・・いた・・・のに・・」
途中しゃっくりのようなモノが入りながら、くるすはその場に膝をついて泣き続けた。
「ゴメン・・・ゴメンよぉ・・・グッ・・・」
おばちゃんを抱いていたおねえちゃんが、こちらを向いた。
「・・・・もう、いいの」
「・・・え?」
「だって・・・人はもう既に、こうなるべき存在だから」
先ほどまでも泣き顔は消えて、無表情になっていた。
するりと立ち上がり、くるすに近づいてくる。
「人は、人という力以上の力を・・持った。だから・・・壊れちゃうの・・・」
「お、お姉ちゃん・・・・?」
「・・・・・太陽に近づきすぎると、羽を捥がれた天使のように」
「何言って・・・ぐっ」
突然、おねえちゃんの手がくるすの首に当てられて、ぐいっぐっと力一杯締められていく。
「ぐっ・・・がっ・・・お、おねぇ・・・」
おねえちゃんが無表情。まるで"人形"のように、無感動にくるすの首を絞め続ける。
涙が溢れて、意識が遠のく。
「や、ヤダ・・・・・。かっ・はっ・・はっ・・・・」
体が、空気を求めて必死に息をしようともがきだす。
だが、まったく緩める気配は無い。
息を吸おうとしても、そんな気力が無い。
もう、無理だ。
諦めた。もう、生きることさえ諦めた。無駄だと悟った彼はゆっくりと眼を閉じて―――
ぱりんっ、と凄い音に驚いて眼を覚ました。
目立ちまくりの赤いポニーテールが窓の破片を避けるように触れながら、金色の刃物に近い十字架のネックレスを握って、少年が飛び込んできた。
「・・・・・・」
彼とおねえちゃんの視線がある。その瞬間、感じた。
・・・ヤバい。と。
「・・・・もう、いいだろ」
彼は悲しそうに呟いた。
「・・・いつまでそうやって、負に取り込まれるつもりだ・・・・?」
一歩。そしてまた一歩。彼は近づく。
「分かってる、痛いだろう?止めろ。もう、止めてくれよ・・・・」
ぎゅっと握り締めていたネックレスの尖った先を、彼は手首に近づける。
「・・・もう、嫌だろ?」
お姉ちゃんは、くるすから離れて、呆然と立ち尽くした。ただ、首を縦に振りながら泣いていた。
「・・・・悲しみ、怒り、不安、全ての負を取り払ってやるよ」
その刃物を振り上げて、彼はおねえちゃんの方に向けて振り下ろした。
「やめ・・・っ!」
止めようとした時、彼はふっと笑って、自らの手首に振り替えて刺し、血がおねえちゃんい飛び散った。
「・・・大丈夫。負を抑えるだけだから。<不安、怒り、悲しみ、全ての負は俺の元へ>」
何かを唱えるように言った後、おねえちゃんの体から、有り得ないくらいの黒いオーラというのか、液体というべきなのか、どろりとした何かが溢れ出して来た。
それはぐわっと獲物を捕らえるように、彼の手首に集中して襲い掛かってきて、彼の傷口へ吸われていって、消えた。
「うぐっ・・・・・」
その傷口を押えて、彼は冷や汗を垂らしながら、お姉ちゃんに歩み寄った。
「うん・・・。増殖する前じゃなくて・・・良かった・・・」
ふらりと彼は、お姉ちゃんから離れて、くるすのほうをみた。
その顔に、見覚えがあった。
あの時、急にオノマトペ先生に食って掛かった少年だ。
「お前・・・」
「・・・・いいか」
冷や汗をかきながら、くるすに彼は言う。
「そうか。やっぱ、お前、"光のキセキ"だったんだな。よし・・・。いいな。"純粋な光"と"疾風の白い風"探せ。・・・こいつ等はお前のすぐ傍にいる」
彼は鋭い黒い瞳にくるすを映し出した。
「・・・いいな。今朝、俺たちがであったのは・・・偶然だ。だけど、それは必然だったんだ」
彼はそう言って、くるすを睨んだ。
「"光のキセキ"・・・。いいな。奇跡を起こしてみろよ」
彼は、割った窓からわざわざ出て行った。ふわり、と蝶が舞うような降り方だった。
* * *
くるすは、とにかく彼の言葉通りに走り出した。
純粋な光"と"疾風の白い風"と呼ばれる人たち。
そして、彼が言った「今朝、俺たちがであったのは・・・」という言葉。
これは確実に―――彼らを示していた。
きっと、きっと。光を信じて。
くるすはとにかく走り続けた。
ついには、叫んだ。
「うぉぉおおぃっ!誰か知らないケド、オノマトペから一緒に逃げた人~」
確実に出て来ないだろうと思われる探し方だった。
コツコツと足音がして、探し続ける。
色々な場面を見て。
裏路地では、誰かが誰かに押さえ込まれて泣いていた。
街中では、恨みを持った人たちが、その恨みをつくってしまった人を襲った。
屋根上では、猫たちまでもが喧嘩している。
浜辺では、カップル様が振られていた。
道路では、何かが車に轢かれていて、その車はそのまま逃げていた。
こんなにも、世界には負の心に満ちている。
こんなにも、世界は美しいはずなのに、この負を出す、人間たちによって悪化していく。
こんな綺麗なのに。こんな素敵なのに。
そう考えていると、気分が悪くなった。
「うっ・・・・」
嘔吐感が止められなくて、路上で吐き出した。
「うぇ・・・げぇえっ・・・ぐっ・・・うぅ・・・」
吐き出したせいか、涙が溢れ出した。
負が。負に。包まれて―――
「うわぁあ?!大丈夫?」
「な・・・オイ!お前!」
別の方向から二つの声が聞えてくる。
くるすの体が浮いて、誰かの温かい背の温もりを感じていた。
「う・・・うぅ・・・うぐっ・・・」
こんな自分は、最近泣いてばかりだなと思った。
それが情けなくて、情けなくて。でも、それはとても嬉しい。
眼を開けたら、今朝の二人がいた。
純粋な女の子の笑みが見えた。
「大丈夫。感じちゃ、駄目。まずは、ここから逃げようか」
ぐいぐいと女の子が、腕を引っ張ってくる。
この実感。そして、顔。
くるすは今頃、思い出したかのように「あっ」と叫んだ。
「・・・空・・音?それと・・・空・・無?」
「えぇ~。今頃?今頃気づいたわけ?」
アハハハ~と空音は笑う。
空無は、眉間に皺を寄せだした。そして、一言。
「・・・来るぞ」
その瞬間、ごぉおおんっと耳障りな音が響いて、床が崩れた。
現実なんかじゃ、ない。でも、そこにいるのは、化け物。
ぐにゃりと歪んだ空間から、とてつもなく大きい体に、牛のような角があり眼が三つ。
有り得ない化け物が、涎を垂らしてこちらを見ている。
―――グッグォォォオオオッ
化け物は思いっきり叫んで、鈍い動きでこちらへ向かってくる。
「なっ・・・・?!」
くるすは、怯えた表情を一瞬見せて、素早く逃げた。
相手は遅いが、恐ろしく一歩一歩がでかい。
とにかく、逃げるべきだと察し、三人は走り出した。
「ちょ、アレ、何?」
くるすは空無に聞く。だが、空無はハテ?と言う様に首を傾げるだけ。
空音は笑って誤魔化している。
いわゆる―――何か知らないまま、適当に逃げてます状態なのだ。
「対処法わかんねぇぇええええっ?!」
くるすはあまりの情報の無さに嘆くが、それは無意味。
ただ彼らは走り逃げて、逃げて、逃げて。でも、ソイツは追いついてくる。
くるすはくるりと振り向いて、ボウガンを向けた。
「いっけぇえええええっ!」
バシュッ、と音がして、ソイツの元へ矢は向かう・・が、それはポキンッとか小さくなって折れた。
「嘘ぉっ?!」
三人はいまだ、逃げるしか方法を思い出せず。
三人は、化け物のでかさからみて、裏路地に入って隠れた。
はぁっはぁっと息を切らしながら、壁に寄り添う。
「どうするよ・・・・」
「俺が知るわけねぇだろ?まずは・・・作戦だな」
空無が「座れ」と、全員をしゃがませる。
「いいな。あいつは鈍い。だが、一歩一歩がでかく、そんなコトを無視できる。だが―――」
「だが?」
「鈍いことは鈍いんだ。踏み潰そうとしている瞬間的に、避けて、、アイツが向いている方向とは別向きに走れ」
いいな。と確認を取って、三人は立ち上がる。
「失敗したら、どうするの?」
空音は聞いた。にっこり笑って、くるすが
「・・・死ぬ?」
そう言った。
ソイツは勘通り、三人を見つけた。ぐわっと手を下ろして、裏路地を道路のように広くした。
見つけたことを嬉しそうに、ソイツはにたりと笑って吠えた。
そのまま、足は上へ。鈍く上へ。
「よしっ。今だっ」
ゆっくりと下ろされる足を避けて、逆向きへ走り出す。
順調に、素早く。そして、的確に足を進めゆく。
そして、抜けた。抜けたはずだった。
「嫌だぁああああっ!」
くるすでもなく、空無でもなく、空音でもない叫び声。
小さな少女。
もう、足はすぐ傍へ。
「駄目ぇえええええええええっ!」
空音が走り出した。
「やめろッ!馬鹿ッ!お前まで、死ぬ気なのか?!」
くるすも走り出した。
「馬鹿野郎ッ!全員行ったら、全員で逝っちまうんだぞ?!」
空無までも走り出した。
化け物の足が、少女の頭上近くへと下ろされていく。
もう、間に合わない。
「止めてよぉぉぉおおおっ!」
空音が叫んだ。そして、光る、世界。
「・・・・<力を欲するものは力に喰われるべく―――>」
足が止まった。化け物が苦しみだす。
「<力を欲するなら呑まれるがいい。麻薬を呑み続けるなら、死を感じるがいい>」
少女がびくりと怯えた。
「<負よ。我の元へ>」
化け物の体がぐちゅりっごぼっと不気味な音を立てて崩れていく。
そして、あの時の、お姉ちゃんから出てきた以上に黒い液体があふれ出してきた。
その黒い液は、声のもとへ。
少女が叫んだ。
「・・・・負へと!」
少女が負の欠片に包まれた。
それと同時に、負が散乱しはじめた。
何か驚きの声。そして、危険だと発した叫び声。
「この町から出ろ!」
負に陥る、三人の生まれ故郷。
ただ、辺りは黒く染まって、町は負に染められて崩れていった。
くるすは眼を閉じ、空無はただ見つめ返し、空音は呆然と立ち尽くして
不知火は、空を睨んでいた。
第三話 双子のシニガミ。
二つで一つの僕たちは、一つで二つの僕たちは
どっちがどっちの、矛盾のシニガミ。
四人は、崩れいく町を見つめて、ただ呆然としていたが、不知火が「行くぞ」と短く言って、三人は我に戻り、急ぎ足で不知火についていった。
「何処へ行く気だ?」
くるすが聞いた。不知火は無愛想に
「隣町」
と答えた。
「隣町?」
空音がもう一度聞く。
「何か問題でも?」
「別に無いけど・・・。シニガミの噂、知ってる?」
「シニガミだと?」
くるすと空音の会話に、不知火が割って入ってきた。
「そのシニガミの話、聞かせてくれ」
三人は驚きの顔を見せた。此処まで、知りたがりそうには思えない。
空音は驚きながらも、話を進めていく。
―――双子のシニガミでね、いつも満月の夜に歌が聞えるんだって。
で、その晩に外にいたら、首を刈られちゃうっていう――
「そこまで」
「え?」
不知火は話の途中で会話を止めた。
「それ以上の情報は、嘘モノだ。双子のシニガミ、それだけで、いい」
くるりと不知火は、隣町の方へ足を向けて、また、歩き出した。
三人は首を傾げながら、不知火に着いて行く事にする。
* * *
大きな門が見えて、不知火はその門をノックした。
ギギィと少し嫌な音がしてから、門はゆっくりと開く。
門の中から、誰かが「どうぞ」と言ったので、四人は足を踏み入れた。
門の中は、至って普通の町並み。
平和で、綺麗な緑に囲まれている、恵まれた町だった。
通りかかった町の人たちは「こんにちは」と会釈する。
その笑顔が妙に、懐かしい。
「・・・いいなぁ。こんな、町」
「大丈夫。俺たちの町だって、すぐ戻るさ」
空音が言った言葉に、空無が言い返す。
「そっかぁ。うん。空無のおかげで元気出た♪ありがとっ♪」
「う、五月蝿い。お前がそんな顔をしてるからだろうが!ぐ・・フンッ」
空無は、フンッと言って顔を空へ向けてしまった。
照れているのだ。
クスクスと空音が笑って、さらに空無の眉間に皺がよる。
くるすは二人を止めて、引っ張った。
スタスタと行ってしまう不知火を追いかけて、三人は走った。
不知火の足が止まったのは、ホテルの前。
「くるす」
「え?」
「・・・お前が、リーダーなんだから。お前がしっかりしろ。後は、任せた」
「えぇ?!」
くるすは急に、バトンタッチされて、戸惑いながらも皆をホテルの中へ誘導した。
そのホテルは綺麗で、赤い絨毯が敷かれていた。
「いらっしゃいませ。四名様、お泊りでしょうか?」
ボーイさんが訊ねる。
「はい」と短く、くるすは答えた。
すると、ボーイさんはにっこりと微笑んで「どうぞ」と奥へ案内し始めた。
えらく用意がいい。エレベーターに乗って、八階の八○五号室。
部屋にはベッドが四つ用意されていて、ちゃんとバスルームまである豪華な場所だ。
さらには、窓から海が見えている。
「うわぁぁっ・・・。すっごぉっ」
空音がはしゃいで、ボヨンボヨンとベッドの上で飛び跳ねている。
くるすたちも笑って、一緒に跳ねた。
「お前ら」
底冷えするような声が聞えた。
「今から夜まで、自由行動。いいな、リーダー?」
「え、あ。うん」
不知火は、すぐにこの部屋から出て行ってしまった。
「・・・・・」
空音はまた、遊びだした。
* * *
いつの間にか、辺りは暗くなり、不知火も帰って来た。
だが、不知火はすぐに合図を送ってきた。
三人は立ち上がる。
「・・・・全員、武器を持つこと。そしたら、外に、出るぞ」
三人は顔を見合わせて、すぐさま、くるすはボウガンを持ち、空無は一応護身用に銃を持ち、空音は何も持つことはせず、見守っていた。
くるす先頭に、四人は外へ出る。そのとき、「あ」と空音が声を漏らした。
「・・・ねぇ、どうして。どうして、月が・・あんなにも赤いの?」
空音が指差した月は、有り得ないほど真っ赤に染まって、下を見下ろしていた。
二人は呆然とそれを見ていたが、不知火の声で戻ってきた。
「聞えるか?」
三人は耳を澄ます。そして、聞えた。歌のような、適当に言葉を並べたような声。
―――赤い満月は、何で染められたの?
真っ赤な血で染められたの
誰の血だろう?
それは勿論
光たちのに決まってんジャン♪―――
楽しそうに歌う、声。それは、綺麗に響きあって、すぐ耳元で聞えているようだった。
月明かりの下に見えた、二つの影。
鈍く光大鎌に、笑顔の男の子たちが見えた。
「見つけたねぇ、月瑠」
「簡単じゃんかねぇ、紅瑠」
「本当に。もっと、逃げてくれれば楽しいのにさぁ」
「そうそう。まぁ、いっか」
「「はじめまして"光のキセキ"。はじめまして"純粋な光"。はじめまして"疾風の白い風"」」
二人は最後に声を合わせて、会釈した。
「僕の名前は、月瑠」
金色の髪の少年が微笑んだ。
「僕の名前は、紅瑠」
白い髪の少年が微笑んだ。
足音を鳴らしながら、二人は同じテンポで歩いてくる。
くるすたちもそれに合わせて下がる。
こんな綺麗な微笑みを見せている彼等を見て、四人は直感的に危ないと感じていた。
「逃がしはしないよ。輝かれちゃったら困るしね♪」
「大丈夫、痛くないよ?一瞬で終るから」
「「さぁ、出演者様は揃ったよ♪はじめようか、僕らの劇でも♪」」
二人は笑って、消えた。
「左右に分かれてッ!」
くるすの指示で、くるすと空音。そして、空無と不知火に分かれて、走り出した。
二つの影も、左右に分かれた。
* * *
「いける?」
「だ、大丈夫」
くるすの問いに空音は少し息を切らして答えた。
余りにも急激過ぎて、二人とも疲れていた。
「・・・・止まって」
くるす達は止まって、殺気の感じる方を必死に探った。だが、見当たらない。
ふいに、後ろから声が聞えた。
「後ろ、がら空きだよ?もう殺しちゃうケドいいのかなぁ?」
鈍く光る鎌が、くるすに振り上げられた。
「駄目!」
とっさに空音が走り出して、思いっきり一緒に引っ張って、その鎌から逃れた。
くるすは驚きながらもボウガンを構えて、撃ち放つ。
だが、もう既にそこにいなかった。
「遅いなぁ。まだ、ぜんっぜん輝きそうも無いじゃん。つまんないの」
白い髪の少年――紅瑠が、つまらなさそうな顔を露骨に見せて、後ろに立っていた。
二人は素早く振り向いて、後ずさる。
もう既に、紅瑠は笑ってなどいなかった。とにかく、呆れている。
「・・・一回、凍らせるとどうなるか、試してあげる」
紅瑠はまた、笑って、氷のように冷え冷えとしたオーラが体中から溢れ出してきた。
触れただけで凍りそうなほど、冷酷なオーラ。
それに、空音は少し怯えた。
くるすは、ボウガンで紅瑠を撃つ。だが、そのオーラによって凍っていく。
「・・・氷って凄いと思うでしょ?溶けない限り、永遠の眠りに誘い込めるから♪」
少し離れたが、そのオーラからの寒さは伝わってくる。
「・・・・凍っちゃえ」
タッと足で地面を思いっきり蹴って、紅瑠は空音に近づいた。
空音は避けようとしたが、紅瑠に腕を掴まれた。
「今、此処で凍っといた方が良いほうだよ?このままで終れるから」
ぞっとするほどの笑みが、空音の頭に焼きつく。そして――。
「あ・・・あぁぁぁああああああっっ!!」
叫び声と共に、"純粋な光"は氷の中に閉じ込められた。
ニタリと不気味に紅瑠は笑って、
「次は―――"光のキセキ"。キミだけだよ?」
と告げた。
* * *
空無達は、とことん逃げ続けていた。
空無の速さと、不知火の設定変えで、大分と逃げ続けられている。
だが、このままでも疲れるだけだ。
空無が言った。
「・・・此処らへんなら、もう、良いだろう」
「どういう意味だ?」
「此処で、激突してやる」
「・・・お前が、出来るか?」
「お前の能力となら、いけるはずだ」
「俺が助けるとは限らないが?」
「・・・そん時は化けて出てやる」
クスリと二人は笑った。だが、これも最後の笑み。
金髪、金色ティアラの月瑠が、目の前に現れる。
「・・・もう、終わり?疲れちゃったの?」
「・・・・・、そんなワケねぇだろ?今からだよッ!」
銃を構えて、空無が月瑠に向かって撃ちこんだ。
そして、その弾丸には、不知火の血がついている。
「<怒りを込めて、願いを込めて、怒りを込めて。敵を貫け>」
弾丸の威力は増して、月瑠の元へ進んでいく。
だが、月瑠は笑っていた。
「・・・甘いねぇ。コレぐらい、弱い、弱い♪」
熱波が感じられて、弾丸は灰に化した。
「いいねぇ、"疾風の白い風"の素早さ。そして"一人部屋"の書き換え」
楽しそうにくつくつと笑う。
「でもさ、甘いんだなぁ、コレが♪」
熱い熱波が、辺りを包んだ。
「・・・なっ」
「地獄の火炎に包まれて見る?」
月瑠が微笑んで、二人の背に冷や汗が流れる。ジリジリと熱気だけでも暑くなっていく。
「・・・・空無」
「何だよ」
「こっちに来い」
突然の呼び出しに驚きながら、空無は不知火に近づいた。
そして―――
べちょっ、
と嫌な音がして、空無の体に不知火の血がべっとりとついた。
「な、何すんだよっ?!」
「五月蝿い。逆に感謝して欲しいのに」
「意味わかんねぇだろ!?急に血を付けられて何を感謝しろと・・・」
「<熱気は全て、外へと―――>」
怒りに満ちていた空無は、急に怒る事を止めた。
今までの熱さが、無かったかのように下がっていく事を感じたのだ。
ニタリと笑った不知火を見て、空無は「ケッ」と言ってそっぽを向いてしまった。
月瑠は、それを見て、クスクスと少し馬鹿にした様子で笑う。
「なるほどねぇ。熱さを避けたんだ。でもさ、死ぬのには変わりないよ?」
ゴォッと音がして、横を炎が掠め通った。
空無は、銃をかまえて、撃つ。
連発で撃ちまくるが、それはことごとく避けられていく。
当たりそうだったものは、熱気で溶けた。
目の前はユラユラとゆれている。
今、この能力が無ければ座ってさえもいなかっただろう。
空無はそう安心しているものの、不知火の様子がおかしかった。
顔は真っ青で、死人のように脱力していて、今、立っているのが凄いと思うほど苦しそうだった。
月瑠がそれに気づく。
「キミの能力は凄く便利で、まさに最強だけれど、能力者自身は、恐ろしい疲労感と激痛があるんだっけ?」
クスクスと笑って、鎌を握り締めた。
ユラユラと揺れていた景色は元通りになって、熱気は消え去ったようだった。
それと同時に、不知火が倒れた。
「し、不知火?!」
既に、生気を無くしてしまったような顔をして、不知火はこちらをゆっくりと見た。
「・・・逃・・げ・・・ろ・・・馬鹿・・・」
途切れ途切れになりながら、不知火は警告する。
「俺は・・・・いけ・・・る・・か・ら・・逃げ・・・ろ・・・」
不知火が口を押えて咳き込んだかと思うと、その手から血があふれ出していた。
手を退けたら、口から血が溢れている。
「お前、それで大丈夫って言えねぇだろ?!」
空無が不知火に駆け寄ろうとした。が、足が別の方向をむいた。
「なっ・・・・!」
足にはべったりと、不知火の血がついていた。
「じゃぁ・・・な。後で 会お・・・う」
必死に笑って、不知火はふらりと立ち上がった。
空無はどうしようもなくなって、走り出した。
そして、不知火の命は、死神によって奪われた。
「さぁて、まずは、紅瑠と合流が先かなぁ♪」
血でぬれた鎌を隠して、月瑠は不知火の死体を置いて、スキップし始めた。
* * *
「ッ・・・ハッ・・・ハッ・・・・」
息を切らしながらも、くるすは逃げ続けていた。
空音を助ける方法。そして、あの二人の命。
全ての不安を抱えながら、必死に走っていた。
今は、逃げることしか出来ないのだから。
だが、疲れを知らないわけではない。くるすは、相手がいない事を確認して、路地に入り、一旦休憩をいれた。
「ッ・・・ハッ・・・ハァッ・・・・」
息を整えようとする。だが、中々整わない。
不安と絶望が一気に流れ込んでくる。
目の前で、凍りついた空音の表情を思い出す。
絶望と、悲しみに満ちた目で、こちらを見ている空音は、純粋ながらも悲しかった。
体を冷やすあの氷で、もう死んでいるかもしれない。
いや、死んでいるはずだ。
そう考えるとくるすは、自分に苛立ちをみせた。
何故、あの時。
あの時、アイツの腕を撃たなかったんだろうか。
静止してしまえば、助かったはずなのに。
・・・・もう、考えても無駄、か。
くるすは微笑を見せて、立ち上がった。
これから真っ直ぐ行けば、空無たちが逃げた方向へ向かう事が分かり、くるすはそのまま突っ走った。
彼等に合流。いや、彼に合流するだけなのだが。
何時間も走った。
疲れたの度を超して、もうムリだ。そう思った。
「・・カッ・・・ハッハァッ・・・」
息さえ出来ないほどまでに、苦しみ出した。
くるすは仕方なく、その場にしゃがみ込んで、寒気がすぐきた。
「もうお疲れぇ?クスクス・・・・じゃ、凍っちゃう?」
くるすは立ち上がって、振り向いた。
紅瑠と――月瑠。二人が揃っていた。
「不知火と・・・・空無はどうした」
「そんな事よりさ、自分の心配しなよ?」
「それって余裕なのかな?・・・馬鹿にしないでねぇ」
「「ただ、輝くのを控えた臆病者が」」
二人の鎌が、くるすのすぐ傍を掠めた。
「さぁて、"光のキセキ"さん?」
「輝く前に、終っちゃう最後の光」
「「バイバイ♪」」
二人が笑った。
世界が揺れて、何かが聞えた。
「くるすッッ!」
それは、空無の声。一瞬しか、彼の姿は見えなかった。
気づけば、くるすを助け出していたのだ。
「ん?"疾風の白い風"の方が、早くない?」
「とっさのスピードは恐いね♪でも・・・・」
二人が消えて、二人が笑った。
「「ほんっと、無駄」」
炎と氷の龍のようなモノが、二人に飛んだ。
くるすが立ち上がる。
そして、空無も。
「・・・<残された奇跡の光。光ることを控えた光>」
「・・・<何者にも見えぬ、疾風のごとく進む白き風>」
二人の声に重なって、小さな声も聞えた。
「・・・<人の心の奥底にある純粋なる光>」
空音の声。空無の隣には、その影があった。
三人は目を開ける。
「<今、三つの光は白く純粋に奇跡を起こして>!!」
町が、光り輝いた。
「・・・チッ。帰ろっか。紅瑠」
「仕方ないね。遊びすぎちゃったね。月瑠」
二人の影は、かすかな闇に溶けた。
第四話 黒紳士と白紳士。
闇に染まった黒紳士は、死を意味して
光に染まった白紳士は、生を意味する。
「・・・・・・・・・」
二人はただ、呆然と立ち尽くしていた。
光に包まれていった後、すぐに光は消えて、双子も消えた。
その代わりに、空音が笑っていたのだ。
「どうしたの?お二人ともッ♪幽霊でも見たような顔しちゃってさ♪」
空無は、普通に「ま、そうか」と意味不明に理解したが、くるすには理解不能だった。
氷の中で、あんなに悲痛そうな顔をしていたはずなのに。
何故今、此処にいる?
「うぅん?くるす?そんな顔してたら、悲しいなぁ・・・あたしがっ!」
にっこりといつも通り微笑んでいた。くるすは、ハァと溜息をついて笑った。
いてくれている。まぁ、それだけでいいんだ。
そう、思ったから。
だが、空音の笑みは消えて、真剣に遠くを見つめた。
「・・・・この町から、逃げたほうがいいみたいだよ?」
指差す方には、チェーンソーや銃を構えた町人達がこちらを睨んでた。
彼らは近づいて、こう言った。
「お前らが・・・。お前らがこの町を狂わせたんだァァアアアアアッ!」
「お前らなんか、入れなければ・・・・入れなければ、良かったッッ!」
「今なら・・・・間に合う・・・。お前らを・・・殺してしまえば・・・・」
涎を散らしながら、言う。一歩、また一歩と近づいてくる。
だが、双子に追い詰められていた為、もう逃げ場はない。
ぎゅいぃぃんっと、チェーンソー的なものが音をたてた。
「くそっ!このままじゃ・・・・」
「・・・・どうすれば・・・」
何処を見ても逃げ場なんてなかった。
どんどんと近づいてくる。
しかし、天の助けか、何か。カツッカツッと音が聞えた。
コツッ・・・コツッ・・・
町人たちは止まった。だが、聞え続ける。
コツッ・・・コツッ・・・・コッ・・・
足音は止まる。だが、異様な存在感は消えなかった。
声が、響いた。
「人がせっかく、いい夢を見ているというのに。野蛮な方々ですねぇ」
不気味で、少し外れているような声で、ソレは言った。
全員が見た。その、存在は―――黒紳士。
彼はクスリと微笑んで、血で赤く染まった日本刀を、赤い満月でさらに光らせた。
「・・・・・さて。この代金は高くつきますよ?皆さん」
タッと軽く地面を蹴っただけに見えたが、
もう既に、チェーンソーを持った男が斬られていた。
そして、もう一人。さらに、一人。
次々と彼は斬り捨てていく。
誰も止められなかった。止めれば、即座に斬られていた。
一瞬だけ。一瞬だけで辺りは血の海に変わっていた。
そして"黒紳士"は、くるすの傍へ。
だが、斬らなかった。顔を見た瞬間に、微笑んで刀を鞘に戻した。
「誰かと思えば・・・"光のキセキ"じゃないですか。先に行ってくれないと殺してしまうところでしたよ?」
彼とは一度、会った事がある。パン屋のおばちゃんが、ああなんてしまった時に見かけた奴。
「・・・・"黒紳士"」
「そっちで覚えたんですか。"光のキセキ"。おや?"疾風の白い風"も"純粋な光"もお揃いで―――」
クスクスと笑う。
「もう、一つ見つけたんですね。進歩が早くて助かります」
「え?」
「あぁ、いえ。こちらの話です。・・・・"闇に染まりし一人部屋"は何処ですか?」
「・・・・"闇に染まりし一人部屋"?」
そう言った時、「あっ」と空無が声をあげた。
「・・・・不知火・・・」
「そういえば・・・・不知火は?」
ぎゅっと拳を握る。すると、"黒紳士"がくつくつと笑った。
「死んだ?馬鹿言わないでくださいよ。・・・あの、不死身が死ぬわけないでしょう?」
笑い続ける彼を、くるすは止めた。
「・・・人の死を笑うなよ」
「・・・人?」
さらに彼は笑った。
「クッ・・・ククッ・・・人?・・・・誰が?」
「なっ・・・・!」
「"一人部屋"が・・・人?人の心が戻ったというんですか?」
堪えきれず、爆笑している。
「・・・クククッ・・・クッ・・・。それなら・・・"白紳士"に会うべきですね」
「・・・"白紳士"?」
「ボクと対立するもの。伝えるもの。・・・この町の北らへんにいますよ・・・」
くつくつと笑って、"黒紳士"は闇に溶けた。
くるすは、それを見届けた後、すぐに足を進めた。
「・・・・行こう。"白紳士"の元へ」
二人は首を縦に振って、くるすの後を追った。
* * * * *
北まで、進む間には、ヘトヘトになっていた。
「・・・くっ。なんで・・・・」
今まで、町人達が、襲い掛かってきていたのだ。
三人は疲れ果てて、座り込んだ。
不知火。
その単語が頭をよぎった。その瞬間、三人は立ち上がる。
今、不知火は死んでいる。ハズ。
あの双子に殺された。
そう、考えると、足を止めてはいられなかった。
「・・・行こう」
くるすはボウガンを構えて、目の前の敵に放った。
空無は、空音を守る為に、周りにいるモノを殴っていく。
そして、また、光り輝いた。
「ようこそ。"光のキセキ"たち」
目の前には、にっこりと微笑んだ"白紳士"がいた。
「・・・"白紳士"。聞きたいコトがある」
「・・・そうですね。では、まず、"闇に染まりし一人部屋"からですか?」
くるすたちは、顔をあげて、"白紳士"を見た。
「彼は、死んではいませんよ」
「・・・・・!」
「ただし―――」
彼は眼を閉じて、開けて、言った。
「彼は、能力以外の全てを忘れています。今なら、闇に染まってもいいでしょうね」
「なっ・・・・」
「その前に、あなた方が見つけ出すべきですよ。彼を。全てを」
笑ったまま言う。
「あぁ、そうそう。"白紳士"ではなく、ルイスと呼んで頂けますか?変でしょう?"白紳士"じゃありませんし」
ルイスは、一歩、三人に近づいた。
「・・・一つ、あなた達は見つけたようですね。大体は"純粋な光"に近い」
「・・・お前も、"黒紳士"も。何を言ってるんだ?」
「・・・・"黒紳士"に会ったんですか」
ルイスの顔が、一瞬、怒りに変えられたが、すぐに笑った。
「・・・・スミマセン。用事が出来ました」
「え・・・?」
「闇については、あなた方がすぐに知るでしょう。探しにいけば、分かるはずです」
「し、不知火は何処に・・・!」
「・・・イーストシティ。そこが、第一戦場。気をつけて・・・」
ルイスが消えていく。
くるすは手を伸ばした。
「ふざけるなっ・・・!何も・・・何もまだ、知らないっ!!」
だが、その声は虚しく響くだけだった。
だが、ルイスは一言だけ、落とした。
「"闇に染まりし一人部屋"のコトは、知らない方が幸せですよ」
くるすと空無の怒りの咆哮は、虚しく響き、空音は」ただ、それを見ていた。
彼らは、そして。第一戦場となる、イーストシティへと足を踏み出した。
第五話 一人部屋。
人を決して寄せ付けない
裏切りを知った一人部屋のこもり場所。
意外にも、イーストシティは近く、徒歩一時間程度だった。
が、その道には、有り得ぬほどの障害物があった。
毒物化した水たまり。
枯れ果てた木々が、倒れる道。
脆くなった岩が山から転がってきている。
そんな道を、くるす達は三人で協力し合って、なんとか乗り越えてきた。
イーストシティは、四大都市の一つである。
くるす達は、微妙に期待を膨らませて、今、目の前にある門を開けた。
だが、そこはまったく思ったものとは別物だった。
「コレが・・・・四大都市なの・・・・?」
空音が呟いて、絶望しきった表情を見せた。
人の気配なんて、そこには無く、廃墟と化したような店が立ち並ぶ。
三人が唖然としていると、目の前に誰かが立っていた。
少し、ひやりとするオーラを発した彼女は、こちらを見て無表情に見つめてきた。
「ようこそ。イーストシティへ。どうか、されましたか?」
言葉も無感動に響き渡る。
「あ、あの・・・。此処、どうなっちゃったんですか?」
空音が聞くと、彼女は答えた。
「ただ、闇に染められただけ。少しご案内しましょう」
手招きをして、彼女はスタスタと何処かへ向かう。
三人はソレを追いかける事に必死だった。
彼女はどこかのパブに入って行く。三人も一緒に入ると、そこは賑わっていた。
ニタリと笑う男達の顔が、一斉にこちらを向いた。
オーナーが、会釈する。
「いらっしゃいませ、塑依様」
「どうも」
塑依と呼ばれた彼女は、振り向いてまた、手招きをする。
それから、どんどんと奥へ、奥へ。
そして、目の前には檻があり、塑依がその檻の奥を指差した。
「・・・・・!」
三人の顔が、驚きを隠せないような顔をした。
目の前には、磔台に、鎖でくくりつけられた不知火がいたからだ。
だが、彼の体は無傷だった。そこに、くるすは気づく。
「なぁ、空無」
「なんだよ」
「・・・・アイツ、鎌で殺されたのになんで無傷なんだ・・・?」
「・・・知るかよ。まず、それ以前に・・・」
空無は、塑依を睨んだ。
「何で、不知火がこんな状態なのかを聞かせてもらおうじゃねぇか」
塑依は、ヤレヤレと言う様に、言った。
「逆に感謝してほしいわ。助けてあげたんだから」
塑依は、不知火に近づく。
「あのまま居れば、町人に殺されていたのを助けたのよ。それに、この子・・・・」
不知火がピクリと動いて、ゆっくりを灼熱の瞳をあける。
「記憶喪失だしね」
不知火は、脱力しきったように、眼を憂鬱に開けて、こちらを見て、微笑んだ。
今までなら、有り得ない事だった。
気高くて、人に触れられるのを拒絶していた彼が、人に微笑んだ。
そして、呟いた。
「・・・・誰?」
三人はただ、唖然としているしかない。
塑依が、言った。
「どうするの?この、記憶喪失の子。一応、預からせて貰ってるけど」
「・・・・俺たちが調査する間は、預かってて下さい」
「分かったわ。じゃぁ、いってらっしゃい」
三人は、パブから外に出た。
塑依はそれを見送って、不知火の方に振り返る。
闇から、四つの影が現れた。
「疑いも無く置いていくなんてねぇ。こんな、重要能力をさ♪」
「ほんっと。バカだよねぇ。ちゃんと、管理しとかなくっちゃ」
双子の死神がクスクスと笑った。
「"闇に染まりし一人部屋"。もう、光には染められないようにしとこうかぁ?」
もう一人、死神が鎌を不知火の首に当てた。
「殺しても、無駄よ。不老不死なんだから」
二つくくりの女が、冷え冷えした声で言った。
「・・・殺しに行く、か」
五つの影は闇に溶け込んだ。
* * *
廃墟になったビルは、不気味なほど暗くて、電球が壊れていた。
時には、此処で何か爆発が起きたように、木っ端微塵の何かもあった。
まるで、戦争があったかのように。
瓦礫の下で、何かが動いていたが、助けることもできない。
空も曇り、活気に溢れるどころか地獄だった。
「もう、嫌」
空音が呟く。
「でも、不知火が・・・・」
くるすが言うと、空音は頷いた。
「そうだね。不知火が、あんな風になっちゃったんだもん。頑張らなくちゃ・・・」
ガッツポーズを見せて、空音は「よしっ」と本気モードになった。
だが、そんな気合を壊すように、空無が言った。
「・・・来るぞ」
「・・散って!」
くるすの指示で、三人は跳んだ。
降りて、自分達のいた場所をみると、二つの鎌が光っていた。
そして、聞きなれた嫌な声。
「HELLO。ようそこぉ、闇の世界へ」
「ちょっとは上達したのかな?」
月瑠と紅瑠が微笑んで、鎌の横に立っていた。
その鎌の間に、見慣れない死神もみた。
「さぁてと。僕を楽しませてねぇ?」
三人が消え、一人一人割り当てられた。
くるすには、見知らぬ死神が。
空無には、月瑠が。
空音には、紅瑠が。
三人は、その死神たちを連れて、分かれた。
くるすと見知らぬ死神は、ビルの屋上に上がった。
見知らぬ死神が微笑む。
「時雨。それが、僕の名前。さぁ、始めようか。踊り狂えよ」
時雨の鎌がブーメランのように、くるす目掛けて投げられた。
それをくるすは避けて、ボウガンを撃つ。
だが、それも簡単に避けられて、時雨の手元に鎌が戻る。
時雨は素早く、くるすに近づき、鎌を振り下ろす。
袖口を切られたが、くるすはその間近で、ボウガンを撃ち放つと、時雨の右肩に当たった。
「痛い、痛いなぁ。うん。いいよぉ・・・。獲物は、そうでなくちゃねぇ」
時雨はヒュッと鎌を振り上げて、叫ぶ。
「紫電」
鎌を遠くから振り下ろすと、紫の雷がくるすを襲った。
いきなりすぎて、くるすの足に感電する。
「うぐっ・・・・!」
くるすは痛みに耐えながら、時雨から離れて、ボウガンを放ち続ける。
時雨はパチパチッと電気を体中に充満させて、接近してきた。
くるすは、ボウガンを四方八方に撃ち放ち、時雨の右腕と、腹に当てた。
だが、そのまま彼は接近して、くるすの右腕を握った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
激痛が右腕から体全体へいきわたり、くるすは絶叫を上げ、時雨を引き離す。
クスクスと微笑む時雨が、言う。
「一応、僕ってスゴイでしょ?」
「ぐっ・・・・う・・・」
右腕が感電して、動かない。
ビリッと激痛が走り続ける。
「そのまま、全部がマヒして、体全体が動かなくなっちゃうってわけ」
「・・・・・余裕かましてると、殺すぞ」
くるすは左手に持ち替えて、ボウガンを撃ち放つ。
それは、時雨の腹に直撃した。
「がっ・・・!」
時雨の口から血が吐き出された。
だが、時雨の表情は笑顔だった。
「クスッ・・・・。もう、終わりかな?」
「っ・・・」
時雨の体から電撃があふれ出す。
「もう、いいでしょ。まだまだ、雑魚だって事。分かっちゃったしねぇ」
くるすの絶叫は雷鳴に掻き消された。
空無は、疾風の足で、逃げ延びていたが、月瑠はすぐに追いついてきた。
もう、目の前に立っている。
「もう、飽きた。"闇に染まりし一人部屋"が居ない今、どうやってこの暑さに対応してくれる?」
熱気が伝わってくる。
一瞬だったが、もう既に汗が噴出す。
「武器も持たない奴が相手なんて、つまんないよ」
月瑠がクスリと笑った。
「燃え尽きちゃえ」
灼熱の炎で、空無の体は包まれていく。
そのまま、彼は闇へ。
空音も、同じように逃げ惑うが、逃げられない。
紅瑠が近づいてくる。
「どうやって助かったの?あの、氷の中から」
「そ、そんな事・・・・」
紅瑠の体から冷気があふれ出す。
「次はちゃんと、凍らせてあげる」
空音は、叫んで、また、逃げ出した。
殺される、殺される、殺される・・・!
空音はそんな恐怖に怯えながら、走り続ける。
「・・・早いよ。終るの」
空音の右手が凍りついた。
そして、右足も。
もう、走れない。後は紅瑠が近づいてくるだけ。
「はぁ・・・。つまんないなぁ。凍れよ」
空音もまた、永遠の眠りについて―――。
* * *
世界は変わって、白く染まっていた。
空音が目を覚ました場所は、白くて綺麗な世界。
隣には、くるすと空無。
目の前に、"白紳士"である、ルイスが立っていた。
「あなた達は、やはり、選ばれたようですね」
ニッコリと彼は笑う。
「あまり、戦いなど選びたくなかったのですが・・・・」
ルイスは、くるすの元へ歩み寄った。
「ただのボウガン。あなたは、それだけでは勝てないハズです」
「・・・・ボウガンを、捨てろというのか・・・?」
「まさか。そんな事、誰が言いますか」
「じゃぁ、なんだ」
ルイスが、ボウガンに手を当てた。
「<光に力を。闇を断罪する加護を―――>」
ボウガンに光が当たる。
だが、変わった様子は無い。
「コレは、ただのボウガンです。ただし、あなたの掛け声で威力は倍増します」
「掛け声・・・?」
「それは、秘密です。戦闘中に、編み出すでしょう」
くるすは、頭にクエッションマークを浮かばせながら、ボウガンを見つめた。
ルイスは、足を空無に向けた。
そして、空無に一本の剣を差し出す。
「コレが持てるかどうかは、あなた次第です。さぁ、柄を握ってください」
空無は、恐る恐る、その剣を握り締めた。
その剣から、何か黒いものが溢れ出して、空無を包む。
空無は、闇の中、一人で立っていた。
「・・・・此処・・・ドコ・・・?」
辺りを見回しても、闇が広がるばかりで、何も無かった。
だが、何も見えないが、音が聞えた。
カツッ、カツッという、誰かの足音のよう。
いや、確実に誰かが近づいてきているのだ。
「・・・・だ・・・れ・・・?」
眼を凝らして、ソレを見る。
その姿が見えた瞬間、空無の表情は驚愕と恐怖に塗りつぶされる。
「お、お前は・・・・・!」
ソレがニタリと笑って、どこからか鞭を取り出した。
空無は、あの時の恐怖を思い出して、逃げることを選ばざるをえなかった。
だが、足は動かない。ソイツが、鞭を振り上げた。
「ぐあっ・・・!がっ・・・!」
背中に電気が走るような痛みが、体中を巡った。
鞭は何度も、何度も振り下ろされる。
「うぐっ・・・・がっ・・・・」
力弱く何度も、空無はうめき声を上げた。
だが、そんなモノは虚しく終るだけ。
痛みに負けて、空無の瞳から涙が溢れ出す。
頭の中に、二つの声が響く。
ソイツから発している言葉。それと、ルイスの、言葉。
「お仕置きだ・・・、お前は、悪いコトをしたんだ・・・」
地の底から響く声。
「剣を・・・剣を離して!」
何かを離そうとする声。
剣・・・?
空無の頭に、"夜桜"の姿が映った。
「・・・・夜桜・・・」
握り締めていた拳に、剣が映し出される。
「俺を、認めてくれるのか・・・・?」
なんとなく、夜桜が応えた。
「・・・・」
空無は夜桜を握り締めて、光に戻った。
目が覚めると、空無は寝転んでいた。
目の前には、何故か泣いている空音の顔が見えた。
「うぇぇ・・・ヒッグ・・・し、死んじゃったかと思ったんだよぉぉ・・?」
しゃっくりと涙で、顔がクシャクシャになりながら、空音は言った。
横を見ると、ルイスが微笑んでいる。
「貴方は、"夜桜"に認められました。・・それは、貴方の力となるでしょう」
ニッコリと微笑んで、ルイスは空無から、空音へと視線を移した。
「遅くなりましたが、次は貴方です」
「あ、あたしは・・・」
空音は少し怯えていた。
力なんて、欲しくなかったから。
そんなものがあれば、必ず傷つけてしまうから。
「イラナイ」
空音は言い張った。
「力なんて、イラナイ。ただ、見守っていたい」
「それぐらい、分かっています。ですが、逃げ惑うだけでは無理でしょう?」
「・・・・っ」
今のままでは、足手まといだ。
このままでは、ただ、邪魔になってしまう荷物。
「でも・・・・」
「自分自身は守れるハズですよ」
ルイスの手から光が漏れて、空音の下へ光は飛んでいく。
その光は、そのまま空音の中へ入った。
「・・・何をしたの?」
「戦いの時に、分かると思いますよ」
ルイスはそう残して、手を振った。
「ではでは、皆さん。次は、負けないでくださいよ?"闇に染まりし一人部屋"を光に染め上げれるように」
「ま、また逃げるのかっ?!」
くるすはそう叫んで、ルイスの腕を掴んだ。
「・・・・いつの日か、知ってしまうでしょうね」
ルイスはくるすの手をゆっくりとのけて、消えた。
また、世界は一転して、目の前には、柵があった。
三人は同時に起き上がって、自分達が檻に入れられているコトに気づく。
三人が困惑の顔を見せていると、クスクスとまた、声が聞えた。
「夢欝の言った通りだね」
「本当に生き返っちゃうなんて」
漆黒の影と純白の影。
対のように感じるのに、そっくりな二人が檻の外に居た。
「「キミ達、不老不死の能力でも持ってるワケ?」」
二人が中に入ってきて、顔を覗きこんだ。
だが、溜息をついて「違うか」と呟いた。
「・・・"白紳士"と"黒紳士"。どっちも動き出したんだ」
「そういうコト、か。クスッ・・・なんか、楽しくなってきたねぇ?」
二人の笑顔が、異常に不気味に感じてしまう。
そして、月瑠の手に鎌が持たれた。
「・・・死んじぇえ♪」
そう告げた月瑠を見て、空音が悲鳴をあげる。
「もう、もう血を見たくないのぉおおお!<純粋な光は、全てに守護を!>」
何かの呪文のような言葉が、空音の口から発せられて、三人を光が包む。
それに驚いた月瑠は、鎌を直して、二人顔を合わせてニタリと笑った。
「なるほど、ね。少しずつ輝き出しちゃったわけねぇ」
「やっぱ。"白紳士"のおかげかな?」
クスクスと笑いながら、彼等は出て行った。
「「じゃぁ、後ろにいる、お友達と仲良くしててねぇ?」」
三人が後ろを一斉に振り向く。
そこには、不知火の姿。
前と同じように、憂鬱に眼を開いて、微笑んだ。
「・・・キミ達、誰?」
その笑顔をいまだ信じきれずに、三人は顔を見合わせる。
不知火は磔にされながらも、可愛く微笑み続ける。
まるで子供のようだ。
「・・・・何処が、闇なんだろ?」
空音が言った。
「どちらかというと、輝いてるのに」
くるすも呟いた。
「・・・コレが、フェイクなのか」
空無はそう言って、立ち上がった。
夜桜は、取られているように思えたが、誰も触れられなかったらしく、置いてあった。
空無はそれを握って、不知火を縛り付けている鎖に刃を突き立てて外していく。
全てが外れて、不知火はガクッと力なく下に寝転がって、ゆっくりと立ち上がっていく。
腕やらには、鎖の跡がくっきりと残っていて、痛々しかった。
「・・・・俺は」
不知火がいつもの口調で語った。
「・・・・<俺は、全てを拒絶する>」
金の十字架が、不知火の腹に突き刺さり、血が飛び散った。
それと同時に、待っていたかのように"闇"が入り込んできた。
「俺の部屋へようこそ」
その言葉が頭に響いた。
第六話 リセット。
人は、人生にリセットなんて無いって言うケド、
世界は幾つモノリセットを繰り返してるでしょ―――。
足が重く、体が動かない。
だが、何処かへ体は中に浮いて移動していた。
何処へ行くのか分からないまま、三人は闇へと浮遊する。
パァッ、と光に包まれたかと思うと、三人はどこかも分からない場所に立っていた。
目の前には、一つの子供部屋。
「・・・・此処」
くるすが何か言おうとした時に、誰かがその子供部屋に近づいた。
女の人だった。だが、こちらには気づいていない。
女はノック無しで、ドアを乱暴に開けた。
三人はドアが閉まってしまう前に、入ってその光景を見た。
苦しそうな小さな少年。
痩せ細っていながらも、赤く燃えるような瞳と髪。
それは幼いコロの不知火だった。
「・・・・馬鹿な子。お前が人間と遊べるとでも思ったの・・・?」
「僕だって・・・人間だもん・・・・」
「フザけないでッ!お前を人間だ何て思えないわ!この、化け物め!」
不知火に女はまたがって、首を締め出す。
三人は止めようとしたが、足が動かない。
このまま、見ていろ。そう命じられたようだった。
「お・・母・・・・さ・・・・んッ・・・!」
「汚らわしい!お前にお母さんと言われる筋合いは無いよ!」
不知火も、母と呼ばれた女も涙を流しながら、目を見合っていた。
そして、母は、不知火から離れたかと思うと、金の十字架を持ち出した。
それを、不知火の心臓目掛けて、奥深く刺した。
「・・・がっ・・・!」
と、小さく呻いて、不知火は動かなくなった。
母は狂ったように笑って、その十字架を不知火の体内に入れ込んだ。
「・・・・嫌」
空音が泣き叫んだ。
その悲痛さに。
それに応えたように、母は狂って笑って、泣いて叫んで。
酷い耳鳴がして、部屋は赤く染まった。
「見たでしょう?」
三人は我に帰り、夢欝を睨んだ。
「お前か・・・?」
「"疾風の白い風"。馬鹿言わないで。あんなコトを見せて何になるの?」
「じゃぁ、アレは、なんだったの?」
「・・・・あれは、現実。彼の悪夢」
ふぅ、と夢欝は間を空けて
「そして。あたしの悪夢」
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